Leica Hektor 28mm f/6,3 コードワードの変遷(1935–1953)


本レンズに対応する主要なコードワードおよびコードナンバーは以下の通りである。

  • 1935 | HOOPY | 50,290 (Booklet No. 1244)
  • 1935 | Hoopy | – (Liste Photo Nr. 7333 c)
  • 1935 | Hoopy chrom | – (Liste Photo Nr. 7333 c)
  • 1938 | Hoopy | – (Liste Photo Nr. 7760.)
  • 1938 | Hoopy | 50,290 (List Photo No. 7784.)
  • 1939 | HOOPY | 65,600 (BOOKLET No. 1275)
  • 1950 | HOOPY-B | 65,605 (No. 1364)
  • 1953 | HOOPY | 11,000 (No. 1382)

1935年:米国市場におけるクローム仕上げ仕様

1935年9月の米国向けカタログ(Booklet No. 1244)では「LEITZ Anastigmat HEKTOR, 28mm focus, f:6.3 (extremely wide angle lens), angle of view 76°, in focusing mount」と表記されている。コードワードはHOOPY、コードナンバーは50,290である。価格は75.00ドルである。このカタログに掲載されているライカにはブラックラッカー仕上げ(黒塗装)とクローム仕上げの2種類がある。ただし巻き上げノブやシャッタースピードダイアルの仕上げがニッケルかクロームに関しては説明がない。そのため、掲載されているモデルを現在の観点で特定することができない。私たちがブラックペイントやセミクロームと呼称しているライカは、当時のカタログの記載では「ブラックラッカー」でしかない。この点を踏まえて改めて本カタログを見ると、本カタログの特徴はレンズの仕上げが1つしかないことである。すなわち、レンズの仕上げはニッケル仕上げまたはクローム仕上げのいずれか一方であったと考えられる。一方で、ライカ本体にはブラックラッカー仕上げとクローム仕上げの2種類が存在する。通常、クローム仕上げの本体にニッケル仕上げのレンズを組み合わせることは考えにくい。したがって、このカタログでのブラックラッカー仕上げは、巻き上げノブやシャッタースピードダイアルがクローム仕上げのセミクローム仕様であり、レンズはクローム仕上げであると考えるのが妥当である。そのため、米国向けカタログにおける標準仕様はクローム仕上げであり、記載されているHOOPYもクローム仕上げであると考える。

1935-1936年:欧州市場におけるニッケル仕上げとクローム仕上げの併売

1935年12月のドイツ向けカタログ(Liste Photo Nr. 7333 c)では「Leitz=Hektor, Weitwinkelobjektiv」と表記されている。このカタログではレンズ名(Objektiv)と焦点距離(Brennweite in cm)が別の列になっている。コードワードはHoopy、価格は95RM(ライヒスマルク)である。また、このドイツ向けカタログではクローム仕上げ(verchromter)が併記されており、ドイツ市場では仕上げが2種類あったことが確認できる。クローム仕上げのコードワードはHoopy chromであり、価格は97RMである。

ニッケル仕上げとクローム仕上げの併記は1936年8月の欧州向けカタログ(List Photo 3K en.)まで確認できる。ここでの表記はニッケル仕上げが「Leitz “Hektor” F/6.3, 2.8 cm. Ultra-wide angle lens for architecture and landscapes. Image angle 76° ; weight 4 ozs.」であり、クローム仕上げは「Chromium plated finish」とのみ記載されている。コードワードはそれぞれHoopyとHoopy chromである。価格は10ポンド14シリングと10ポンド18シリング6ペンスである。欧州においてはニッケル仕上げが標準仕様として扱われ、クローム仕上げは別仕様として併売されていたことが確認できる。なお、同じ1936年8月でもドイツ語カタログ(Liste Photo 4 K d.)においては、標準仕様(ニッケル仕上げ)の価格欄に「Wird nur noch verchromt geliefert.」と記載されている。これは「今後はクローム仕上げのみで供給される」という意味であり、欧州向けカタログでは併売が確認できるものの、実際にはニッケル仕上げの製造は終了に向かっていたものと考えられる。

1936-1938年:クローム仕上げへの移行とコードワード表記の揺れ

1936年12月のドイツ語カタログでは「Leitz-Hektor, Weitwinkel-Objektiv」と表記されている。コードワードはHoopy chrom、価格は97RMである。記載はこの1種類のみであり、ニッケル仕上げは販売終了し、標準仕様がクローム仕上げに移行したことが確認できる。

1937年11月のフランス語カタログ(Liste Photo 4K. fr.)では「Leitz-Hektor 1 : 6,3 – 2,8 cm, objectif ultra-grand-angulaire pour l’architecture et paysage; angle de champ 76°, chromé」と表記されている。日本語では「Leitz-Hektor 1:6.3 2.8cm。建築および風景撮影用の超広角レンズ。画角76°。クローム仕上げ。」という内容となる。コードワードはHoopyである。一方で、同時期のドイツ語カタログ(Liste Photo Nr. 7325 g W.)では「LEITZ-HEKTOR 2,8 cm 1 : 6,3. Weitwinkel-Objektiv mit besonders großem Bildwinkel für Architektur- und Innenraum-Aufnahmen, verchromt.」と表記され、コードワードはHoopy chromとなっている。HoopyとHoopy chromは同じ仕様のレンズであるが、カタログによって表記が異なっている。このことから、コードワードの運用はカタログや地域によって必ずしも統一されていなかったと考えるのが自然である。

1938年6月のドイツ語カタログ(Liste Photo Nr. 7760.)では「LEITZ-HEKTOR 2,8 cm 1 : 6,3. Weitwinkel-Objektiv mit besonders großem Bildwinkel für Architektur- und Innenraum-Aufnahmen, verchromt.」と表記されている。コードワードはHoopy、価格は97RMである。同年10月の米国向けカタログ(List Photo No. 7784.)では「LEITZ HEKTOR 28 mm focus, f : 6.3, extra-wide-angle lens for architecture and interior photography, chromium plated.」と表記されている。コードワードはHoopy、コードナンバーは50,290である。価格は60.00ドルである。

1939年:戦前最後のカタログ掲載

Hektor 28mm f/6,3の戦前最後のカタログ掲載は1939年3月の米国向けカタログ(BOOKLET No. 1275)である。カタログでの表記は「LEITZ Anastigmat HEKTOR, 28mm focus, f :6.3, (extremely wide angle lens), angle of view 76°, minimum focusing distance 3.5 ft., in non-collapsible focusing mount」である。コードワードはHOOPY、コードナンバーは65,600となった。価格は69.00ドルである。

1950-1953年:戦後再登場とコード体系の再編

戦後最初のカタログ掲載は1950年10月の米国向けカタログ(No. 1364)である。ここでは「Hektor 28mm. f/6.3 wide angle (76°), coated lens」と表記されており、コーティング仕様になったことが確認できる。コードワードはHOOPY-B、コードナンバーは65,605である。価格は112.00ドルとなった。

Hektor 28mm f/6,3のカタログへの掲載が最後に確認できるのは、1953年6月の米国向けカタログ(No. 1382)である。表記は「Hektor 28mm, f/6.3, extreme wide angle lens, in non-collapsible focusing mount, angle of view 76°」である。コードワードはHOOPY、コードナンバーは11,000となった。価格は102.00ドルである。なお、コードナンバーが11,000となったことからわかるように、戦後のLeitzにおけるコード体系再編の中で、本レンズも新しい商品番号体系へ移行していたことが確認できる。